心筋梗塞などの心疾患や、脳梗塞などの脳血管疾患の原因となる動脈硬化は、加齢や性別、家族歴などの変えることのできない要因だけが関係していると思っていませんか?
実はそうではなく、脂質異常症や糖尿病、高血圧などの生活習慣病や喫煙などの自分自身で改善ができる要因もリスクとなるのです。
このようなリスクの一次予防としては、
- 体重管理
- 食事
- 運動
- 禁煙
が基本となります。
今回は、この中でも最近の研究で明らかにされた、食事についての4つのポイントについてご紹介していきます。
総エネルギー摂取量を減らす(食べ過ぎを減らす)
「食べ過ぎたと思った翌日、体重計に乗ると1㎏増えている」
そのような経験があるかもしれません。
体重は、消費(身体活動・運動)と摂取(食事)のバランスが崩れてくると、増えたり減ったりします。
動脈硬化は、そのような摂取エネルギーの方が多い状況が続いたことによって生じた、肥満やメタボリックシンドロームなどの血中脂質が、異常な状態にある人において進行しやすいとされています。
つまり、動脈硬化を予防するためには、減量が有効な手段となります。
実際に、仕事や家事、運動習慣なども含めた日常生活での身体活動量をもとに適正な摂取エネルギーの制限を行い、1年後に3%以上の減量が行えると、血中のLDLコレステロールや中性脂肪の低下やHDLコレステロールの上昇などの血中脂質の改善がみられるとされています。
具体的な目標としては、
標準体重{(身長m)2×22}×身体活動量
※身体活動量
(デスクワークなどの軽い労作:25~30)
(立ち作業などの普通の労作:30~35)
(力仕事の多い重い労作:35~)
ポイントは現在の体重ではなく、自分の身長からみた適正体重(BMIが22のとき)に必要なエネルギー摂取量を計算するということです。
まずは、1か月1㎏ペースの減量を目指す場合には、1日あたり240kcal(ご飯1膳弱、どら焼き1つ、ハンバーガー1個弱など)減らすことを目標にしてみましょう。
ただし、高齢者などの日常生活に支障をきたすような筋肉量の減少がある低体力者や、明らかな低栄養状態がある場合はこれに限りません。
このような方は、エネルギー摂取を減らすことでさらに悪化することもあるので、制限ではなく適正な栄養素の摂取が必要になります。
食事の中の油脂を減らす(人によっては炭水化物も)
動脈硬化は、血液中のアブラ分である中性脂肪の過剰状態とともに、動脈壁に蓄積しやすい悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールの増加が関係しています。
そして、余分なコレステロールを体外に排泄しようとしてくれる、善玉コレステロールと呼ばれるHDLコレステロールの減少により進行するとされています。
動脈硬化の進行を防ぐ適正体重を維持するために必要なエネルギー摂取量を計算し、その数字だけをあわせようと熱量(カロリー)の表示だけを見て調整しても意味がありません。
おにぎり2個とカップラーメンとか、惣菜パンと菓子パンと野菜サラダなど、栄養素のバランスが悪い組み合わせでは、結果的に動脈硬化が進んでしまう原因にもなります。
食事の内容を考える際の重要な考え方に、
- P(たんぱく質)
- F(脂質)
- C(炭水化物)
のバランスがあります。
PFCすべてが、体を動かすためのエネルギーの源になるものではありますが、
[box class="blue_box" title="体内で1gあたり"]体内で1gあたり- たんぱく質=4kcal
- 脂質=9kcal
- 炭水化物=4kcal
のエネルギーに変わるとされています。
つまり、脂質は少量であってもたくさんのエネルギーに変わってしまうために、摂りすぎてしまうとエネルギーの過剰摂取になってしまい、消費されなければ血中脂質の増加や体重、体脂肪の増加につながります。
実際に、脂質の比率の低い食事(20~25%)と比率の高い食事(30%~)の食事を摂り続けた肥満者を比べると、脂質の比率の低い食事を摂った人のほうが1年後にLDLコレステロールは低下したと報告されています。
しかし同時に、脂質の比率の高い食事を摂った人の中性脂肪は低下し、HDLコレステロールは増加したとの報告もあります。
つまり、今のところ血中脂質に異常のない場合や高LDLコレステロール血症の場合には、脂質のエネルギー比率は20~25%に抑えることを基本にします。
そして糖尿病や高中性脂肪血症、低HLDコレステロール血症などがある場合には、あわせて炭水化物のエネルギー比率を下げ、その中でも食物繊維を多く摂ることが重要になります。
魚や大豆などの固まらない油(不飽和脂肪酸)を含むたんぱく質を増やす
PFCの比率の中で、F(脂質)を減らし、人によってはC(炭水化物)を減らすことで増えてくるのはP(たんぱく質)です。
タンパク質は筋肉量の維持にもつながり、基礎代謝の低下を防ぐことにもつながります。
たんぱく質の代表としては、
- 肉
- 魚
- 牛乳・乳製品
- 大豆・大豆製品
- 卵類
が挙げられます。
この中で、
- 脂肪含有量の多い肉や内臓類
- 動物由来の脂(バターやラード)
- 牛乳・乳製品
については、動脈硬化のリスクになる飽和脂肪酸が多いため、反対に避けたい食品です。
鶏卵に関しては、コレステロールを多く含む食品として有名です。
しかし最近の研究では、血中脂質に与える影響は個人差が大きいことも明らかにされていますが、やはり大量摂取は避けるべきでしょう。
一方で、魚と大豆は積極的に摂るべき食品です。
魚の油には、n-3系多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)や、エイコサペンタエン酸(EPA)が多く含まれており、中性脂肪の低下に効果がある上に、冠血管疾患の発症の抑制にも効果があるとされています。
特にサバやイワシなどの青魚に多く含まれています。
日本人は、世界的に見ても日常的に魚を食べる習慣は多い方ですが、年々、魚の摂取量は減少傾向です。
1日1回はとれるように意識していきましょう。
大豆についても、日本は日常的な摂取量が多い国であり、実際に動脈硬化に対する効果をみた研究も日本人を対象としたものが多くみられます。
その効果としては、大豆に含まれるイソフラボンがHDLコレステロールを増やし、LDLコレステロールを減らす作用があるとされます。
そのほか、レシチンという物質が血管に蓄積したコレステロールを溶かし、血液の流れを良くしたり、血管に蓄積するのを防ぐ効果があります。
また、大豆にはn-6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸が含まれており、LDLコレステロールを減らす効果が期待できます。
豆腐や納豆、豆乳など最近ではたくさんの大豆製品が販売されています。
上手に食事の中に取り入れていきましょう。
人工的に作られたトランス脂肪酸の摂取は控える(加工食品には注意)
最近では、頻繁に名前を見るようになったトランス脂肪酸。
トランス脂肪酸は、牛肉や羊肉、牛乳・乳製品など天然に含まれるものもあります。
しかし大多数は、工業的に加工および精製されたマーガリンやファットスプレッド、ショートニングの中に含まれており、それらを使用して作られたパンやケーキ、ドーナツなどの洋菓子や揚げ物に多く含まれています。
トランス脂肪酸の摂取はLDLコレステロールを増加させ、HDLコレステロールを低下させることや、血圧やインスリン抵抗性を悪化させるなど、動脈硬化を悪化させることが報告されています。
そのため、海外ではトランス脂肪酸に関する規制が進み、使用の規制だけでなく、加工食品中の含有量の表示の義務付けなどがされている国もあります。
[box class="yellow_box" title=WHOで目標とされている数値] 「食事からのトランス脂肪酸摂取は、総エネルギー摂取量の1%未満とすべき」[/su_note]
これに対し、日本人のトランス脂肪酸摂取量は0.3%~0.47%程度とされており、欧米と比べてもかなり低い状況ではあります。
日本においてはそもそもの摂取量が少ないために、トランス脂肪酸の情報を自主的に開示するよう求める程度であるため、若年者においては知らず知らずのうちに摂取している傾向もみられます。
まとめ
魚や大豆だけでなく、野菜や果物、海藻など日本で伝統的に摂取されている食品には、心血管疾患の予防効果が高いとされています。
日本食に多い塩分の過剰摂取には十分に気を付けて、健康的な食事を心がけましょう。
参考文献
「厚生労働省 平成26年度国民健康・栄養調査の結果の概要」
「日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」