肩関節を動かすと、痛くて思うように動かせない「五十肩」。
袖に腕を通そうとしたり、くしで髪をとかそうとしたり、洗濯バサミに洗濯物をはさもうとしたりして腕を上げたときにズキッとする強い痛みが走ります。
「五十肩」はその名前が示すとおり、中年以降、とくに50歳代に多く見られます(医学的には「肩関節周囲炎」という診断名がつけられています)。
ここでは五十肩の症状及びその原因と対策について見ていくことにしましょう。
五十肩になる3つの原因
まずは五十肩になる原因を3つご紹介しましょう。
肩関節の骨を支える組織(筋肉・靭帯・腱)の老化
肩関節を細かく見ていくと実はさまざまな組織で構成されています。
その主な組織として、
- 肩甲骨、上腕骨、鎖骨などの「骨」
- 三角筋、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)などの「筋肉」
- 骨と骨を結ぶ「靭帯」
- 筋肉と骨を結ぶ「腱」
があります。
これらのうち骨を支える②、③、④の組織のどこか一部でも老化により性質が劣化して機能が衰えてしまうと、他の連動する組織にも影響を及ぼし、肩関節全体へと炎症が進んでいき、あるとき肩関節に激しい痛みやしびれが出てきます。
腕を動かしたときにはもちろん痛みますし、何もしていなくても、寝ているときでも付きまとう痛みに悩まされます。
これがいわゆる典型的な「五十肩」の症状です。
痛みは1~2カ月、長い場合は半年程度続きます。
利き手でない方の肩から始まるケースが多いと言われています。
参考文献
「日本整形外科学会 五十肩」
「整体ラボ 肩関節周囲炎」
肩関節の動きをよくする袋(関節包)の癒着
「五十肩」による肩関節の痛みは、1~6カ月かけて軽減していきますが、痛みは治まっていっても肩関節の動きは悪くなっていく場合があります。
これは肩関節についている、2つの関節包(注1)が癒着してしまうことで起こる症状です。
これは「癒着性関節包炎」という病名で、「五十肩」でもより症状の重いものです。
腕を上げ下げしたり、回したりすることがますます困難になり、夜寝ていてもズキズキした痛みが続き、眠りにくい状態が続きます。
肩関節の腱に石灰が沈着して痛む(石灰沈着性腱板炎)
40~50歳代の女性に多く見られる症状で、肩の骨と筋肉をつなぐ腱に石灰(リン酸カルシウムの結晶)がたまることで出てくる痛みです。
夜間に突如痛みが生じることで、症状に気がつくケースが多いようです。
五十肩の治し方
次に、五十肩の治し方を順に紹介していきましょう。
位置を固定して安静にする
動かすのがつらいほどの痛みが突然出てきたときは、三角布やアームスリングなどの支持具を使って肩関節が極力動かないように固定して、安静にします。
消炎鎮痛薬を使う
痛みを和らげる薬を使います。
消炎鎮痛薬には湿布などの外用薬、注射薬、内服薬、坐薬などがあります。
注射薬ではステロイド薬、ヒアルロン酸ナトリウムなどが使われます。
近年は副作用が少なく、私たちの体内にある滑液(関節の中にある液体)にも含まれているヒアルロン酸ナトリウムが医療現場で用いられるケースが多くなっているそうです。
市販薬では、NSAIDs(エヌセイズ:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugsの略)と呼ばれる、非ステロイド性抗炎症薬がつらい痛みを和らげるのに適してします。
NSAIDsの貼り薬ではインドメタシンやロキソニンが配合されたものが販売されています。
NSAIDsの飲み薬ではロキソニンやイブプロフェンの配合されたものが代表的です。
運動療法(ストレッチ体操・リハビリなど)
自分でできる治療として、肩関節周囲のストレッチ体操が挙げられます。
普段、肩関節を普段使わないでいるから、肩関節周囲の組織が衰えて「五十肩」が起こりやすい状態になってしまったのです。
肩関節周囲の組織を意識したストレッチ体操を行い、筋肉や腱、靭帯の柔軟性を高め、機能の向上・維持に努めるようにしましょう。
「五十肩」で悩んでいる方でも比較的痛みが少なく、効果的に行えるストレッチ体操としては、
- 背中を丸めたり反らせたりすることで肩甲骨をスライドさせて可動性を高める「猫ストレッチ」
- 肩をすくめて戻したりすることで肩甲骨を上下に動かして可動性を高める「ペンギン体操」
- 肩をすくめた状態でグルグル肩関節を回す体操
などがあります。
プールやジムでのエクササイズも「五十肩」の疼痛や筋力の改善に有効であるとされています。
参考文献
「日本理学療法士協会 肩関節周囲炎 理学療法診療ガイドライン」
病院(整形外科)で手術する
今まで示した方法で治らない、厳しい痛みが全然ひかない、といった場合は手術になります。
手術は整形外科医が行います。
最近の手術では「関節鏡」と呼ばれる細い棒状のカメラを、皮膚を割いて作った穴から挿入して関節内部につたわせることで病状観察し、病変部を確認したら、カメラに付いている治療器具で修復するという術式が多く行われています。
参考文献
「医療法人 ここの実会 嶋崎病院 関節鏡視下手術」
病院ではどのようなリハビリを行う?
「五十肩」を専門としているのはやはり「整形外科」です。
整形外科の病院や診療所でまず医師が問診やMRI検査、病理組織検査などを実施し「五十肩(肩関節周囲炎)」という診断を行います。
その後、機能回復リハビリによる支援業務の専門家であるリハビリテーション専門医や理学療法士が、ストレッチ体操やトレーニングなどの指導を行います(整形外科医が兼務する場合もあります)。
リハビリ医や理学療法士が行うリハビリメニューとしては、
- 患部の牽引と圧迫を行って可動域を広げる「関節モビライゼーション」
- 身体の深部に「短波」という特別な電波を加えたり、「ホットパック」という温熱器具を使ったりしながら患部を温めて可動域を広げる「温熱療法」
- 通常痛みがあるから動かせない関節患部を麻酔で麻痺させた後、手で動かして柔軟性を高める「麻酔下マニュピレーション」
- 患部にレーザー光線や超音波を当てて痛みの軽減と可動域の拡大を図る治療
などが挙げられます。
まとめ
「五十肩」は肩関節周囲の組織の肉体的な衰えが原因であることを理解いただけたでしょうか。
頻繁に腕の上げ下げをする必要がない生活を送っている人はとくに退化が進みやすいかもしれません。
「五十肩」になってしまった人、もしくは「五十肩」を予防したい人は肩関節ストレッチを日常生活に取り入れ、これを習慣化し、70歳、80歳になっても痛みの出ない肩を目指しましょう。
ただし、腱の老化・退化が進んでいるところにいきなり激しい運動をすると腱が切れてしまうおそれがあります。
張り切って肩をすごい勢いでぶんぶん振り回すようなことをする必要はありません。
肩甲骨をゆっくりと上げ下げ、前回し後ろ回しする運動でも十分に肩関節周囲の組織への刺激になります。
そして、これは肩こり防止にも有効ですので、是非ためしてみて下さい。