「インフルエンザは風邪の延長」などと、軽く見ていませんか?
実はインフルエンザの合併症の中には死に至るものや、一生後遺症に悩まされてしまうものも存在します。
今回は、インフルエンザで気をつけたい4つの合併症を徹底解説していきます。
肺炎
症状
- 65歳以上の高齢者
- 喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患患者
- 妊婦
- 糖尿病患者
- がん患者
などがインフルエンザにかかると、合併症として肺炎を起こしやすくなることが知られています。
肺炎の症状として、
- 激しい悪寒
- 38℃以上の高熱
- せき
- 全身倦怠感
などが見られます。
せきは始めのうちは空せきですが、症状が進むと黄色や緑色、さび色のたんが出てきます。
胸にするどい痛みが走るようになり、顔やくちびるが紫色になります。
原因
インフルエンザウイルス単独で、あるいはインフルエンザウイルスと細菌(肺炎球菌、黄色ブドウ球菌など)が一緒になって気道の炎症を進展させ、肺炎を起こします。
インフルエンザウイルスに感染すると、気道の粘膜表面にある細胞が傷害されてしまいます。
これにより粘膜の細胞が本来持っているウイルスや細菌などを追い出す力が損なわれ、これらが滞留し、気管支の奥へ、さらに肺(肺胞)の細胞へと傷害領域を押し広げていくことで、最終的に肺炎になってしまいます。
実際に肺の細胞を傷害し、肺炎を引き起こすのはインフルエンザウイルスよりもむしろ肺炎球菌などの細菌によるケースが多く、インフルエンザウイルスは細菌が侵入するための突破口としての機能を果たすと言われています。
なお、COPD(慢性閉塞性肺疾患;慢性気管支炎や肺気腫の総称)という呼吸器疾患をもつ人では、インフルエンザからの肺炎が致命症となるケースもあるので、インフルエンザ罹患後のケアには細心の注意をしなければなりません。
また高齢者はインフルエンザからの肺炎が死因になる人も多く、やはり注意が必要です。
対処法・治療法
インフルエンザ後、発熱、せき、たんなどの症状が治まらなければ医療機関を受診し、肺炎に至っていないか確認しましょう。
医療機関では胸部レントゲン写真を撮ったり、採血をしたりして肺炎がないかを調べます。
肺への炎症が進んでおり、肺炎あるいは肺炎へ進行する可能性が高いと診断されれば、
- 肺炎球菌
- ブドウ球菌
- インフルエンザ菌
など、肺の炎症を引き起こしている菌を殺傷する効果のあるペニシリン系の抗菌薬(オーグメンチンなど)が処方されます。
これを飲むことで肺の炎症を抑え、肺機能の回復を図っていきます。
また、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人であれば、ペニシリン系以外にもマクロライド系と呼ばれる抗菌薬(クラリスなど) が処方されます。
そして入院が必要なほど重度の肺炎患者なら、β―ラクタマーゼ阻害剤(ユナシン、ゾシンなど)と呼ばれる抗菌薬が点滴で投与されることがあります。
こうした肺炎治療は呼吸器科の治療となります。
参考文献
「浜松医療センター 感染症について」
「ファイザー おとなの肺炎球菌感染症.jp」
「元住吉こころみクリニックHP 肺炎」
インフルエンザ脳炎・脳症
症状
インフルエンザによる脳炎・脳症は、特に乳幼児を始め5歳までの子供に起こりやすい合併症として知られています。
インフルエンザに罹ってから3日~14日の間に、
- 発熱
- 頭痛
- 意識障害
- 異常言動
- 異常行動
- けいれん
などが始まり、非常に恐ろしいことにこのような症状が始まると10~40%の人が死亡し、20~30%の人に神経の後遺症が残ってしまうことが知られています。
原因
インフルエンザ脳炎・脳症が引き起こされる原因はまだ明確には解明されていませんが、インフルエンザによって身体に炎症を起こさせる物質(炎症性サイトカイン)が急激にかつ大量に全身、あるいは中枢神経に作られることが大きく関与していることがわかってきています。
また、ほとんどの症例がインフルエンザA香港型であることが知られています。
対処法・治療法
インフルエンザ脳炎・脳症は発症が急激で、症状の進行も早く、一旦なってしまった場合に有効となる治療法はまだ見出されていません。
現在においては、メチルプレドニゾロンというステロイドを大量に投与する方法が期待されています。
その他にも少数例ですが、治療実績を積み重ねている治療法として、
- 脳低体温療法
- 血漿交換療法
- シクロスポリン療法
などが挙げられます。
こうしたインフルエンザ脳炎・脳症の治療は、集中治療を行う小児科が得意としています。
参考文献
「厚生労働省 インフルエンザ脳症ガイドライン」
「くば小児科クリニックHP」
心合併症(心筋炎・心膜炎)
症状
インフルエンザウイルス感染により心臓の筋肉(心筋)に炎症が起こることがあります。
心筋炎の症状としては最初は喉の痛みから始まり、
- せき
- 発熱
- 悪寒
- 心不全
- 不整脈
- ショック症状
- 全身倦怠感
などが挙げられます。
劇症型心筋炎を起こすと最悪の場合、死に至ります。
また、インフルエンザウイルス感染により心筋炎と並んで、心筋を包む筋肉(心膜)にも炎症が起こることがあります。
心膜炎の症状としては、
- 38度前後の発熱
- 発汗
- 悪寒
- 倦怠感
などが挙げられます。
また心膜炎では胸部に鈍痛を長く感じることがあります。
心膜炎が長引くと、心膜が線維化することで心臓の右室のポンプ力が低下し、十分な血液量を送り出せない病気(右心不全)になってしまうことがあります。
心筋炎と心膜炎が合併することもあります。
この病気はインフルエンザの合併症としては肺炎や脳炎・脳症ほど多くありませんが、子供から高齢者まで誰でもかかるおそれがあります。
原因
心筋炎は読んで字のとおり、心筋という心臓を動かしている筋肉にインフルエンザウイルスが感染することで起こる炎症反応です。
心膜炎は、これも読んで字のとおり、心膜という心臓を包んでいる心膜に炎症が起こる病気です。
心膜は二枚あり、その間に心膜液という液体が少量流れています。
この心膜液が、心臓が規則的に動ける環境を整え、心膜間の炎症を防ぐ働いたりしています。
心膜炎では心膜液が増加することで心臓の動きが障害され、このとき胸痛が起こります。
対処法・治療法
劇症型心筋症は有効な治療法がなく、亡くなるケースが多い病気でしたが、最近では心臓の働きを体外で補助する「心肺補助循環装置(PCPS)」という機械が開発され、この装置を持っている循環器専門病院では半数以上の患者さんが救命されるようになっています。
したがって、心筋炎、心膜炎が発生したら、やはり充実した循環器科のある医療機関が安心でしょう。
参考文献
「加古川医師会 インフルエンザ合併症」
「日本心臓財団 心筋炎・心膜炎 とは」
ウイルス性筋炎
症状
インフルエンザ合併症としては稀なケースですが、急性のウイルス性筋炎の報告例もあります。
インフルエンザの回復期または罹患期に、ひ腹筋、ヒラメ筋など下肢に強い筋肉痛が起こり、起きられない、歩けないなどの症状が出ます。
多くは数日から10日程度で自然に軽快しますが、急性の筋肉壊死や腎不全などの重篤な報告例もあります。
主に小児で発症します。
原因
ひ腹筋やヒラメ筋などの下肢筋肉が、ウイルスに感染することで起こります。
対処法・治療法
消炎鎮痛剤で筋肉の炎症をしずめて痛みを除去します。
参考文献
「阪南中央病院 ウイルス性筋炎」
インフルエンザの合併症を防ぐために注意すること
インフルエンザウイルスが、体内に広がれば広がるほど合併症も起こりやすくなります。
まずインフルエンザをすばやく確実に治すことが最高の合併症防御策となります。
薬の力に頼らず自分の免疫力で治すのは素晴らしいことですが、インフルエンザウイルスの力がそれを上回ってしまうと肺や筋肉、最悪の場合、脳や心臓にまでウイルスが及んでしまいます。
インフルエンザのおそれがあればやはり医療機関を受診し、抗ウイルス薬という文明の利器の力を借りるのが得策です。
もちろん、ウイルスに負けない普段からの身体づくりはそれ以上に重要です。
まとめ
毎年、多くの高齢者がインフルエンザの合併症として肺炎を起こして命を落とします。
インフルエンザ脳炎・脳症で亡くなってしまう幼い子供たちも多くいます。
インフルエンザウイルスは身体が未熟な人、弱い人たちを容赦なく襲い、全身をすごいスピードでむしばんでいきます。
医療技術の進展により感染症の死者は確実に減りましたが、高齢者や乳幼児がインフルエンザにかかったときの合併症に対する配慮は常に念頭に置いておくべきでしょう。