三叉神経が麻痺したときの症状と治療法!薬・レーザー治療・手術など徹底解説!

本記事は、下記の医学文献などに基づき口腔外科医が執筆いたしました

三叉神経麻痺という症状をご存じでしょうか。

私たちの顔の部分にある神経で、この神経が麻痺すると重大な障害になってしまう恐れがあります。

もちろん、早急に病院での診察が必要なのですが、その前に一度ここで三叉神経麻痺についての概要をおさらいしておきましょう。

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三叉神経が麻痺したときの症状

三叉神経は、脳神経のひとつで、主に顔面部の感覚を司っています。

三叉神経という名前の由来は、半月神経節というところから3つの枝に分かれて走行しているところにあります。

 

上方から順に第一枝・第二枝・第三枝とされ、それぞれ眼神経、上顎神経、下顎神経とよばれています。

なお、眼神経と上顎神経は完全に感覚だけの神経ですが、下顎神経には食べ物の飲み込みに関与している運動神経も含まれています。

 

三叉神経麻痺というと、一般には眼神経、上顎神経、下顎神経の感覚神経の麻痺を指します。

三叉神経麻痺がおこると、それぞれの神経の支配している領域の感覚が痺れます。

左右両方の三叉神経が同時に麻痺を起こすことは稀で、ほとんどの三叉神経麻痺が片側性です。

神経麻痺が起こった領域に応じて、顔面の皮膚や眼の粘膜、お口の粘膜の感覚が鈍くなったり、舌の前方2/3の味覚がなくなったりするなど、症状は異なります。

 

たとえば、右側の下顎神経の三叉神経麻痺がおこると、顎の先や下唇の感覚が、麻痺の起こっていない左側のそれと比べると鈍くなってしまうという症状です。

運動神経の麻痺ではないので、顔の表情が左右で非対称になるという様な変化はありません。

 

なお、麻痺には、完全知覚麻痺と知覚鈍麻とあります。

完全に感覚がなくなってしまうものが前者で、感覚はあるけれど鈍くなってしまっているものが後者です。

三叉神経が麻痺したときの治療法

それでは、三叉神経が麻痺したときの治療法はどのようなものがあるのでしょうか。

その5つの治療法について解説していきましょう。

薬物療法

ビタミン剤の投与が行なわれます。

ビタミン剤としては、ビタミンB12製剤であるメチコバールという薬を使うことが多いです。

 

メチコバールには飲み薬と注射薬があります。

三叉神経麻痺に対しては、飲み薬タイプを1回500[μg]、1日3回投与します。

 

投与期間は症状に応じて異なります。

三叉神経麻痺が早期に改善すればその時点で投与終了となります。

 

改善がなかなか認められない場合でも、6ヶ月以上処方されることはほとんどありません。

麻痺の発現から6ヶ月を経過しても改善しない場合、それ以上にわたって投与を続けても改善する見込みがないからです。

原因の除去

三叉神経麻痺が、たとえばインプラントが下顎神経を圧迫しているなどの物理的な刺激によるものであれば、原因となっているものを除去しなければなりません。

三叉神経麻痺が発現してからそれほど時間が経っていない場合は、原因の除去だけで麻痺が改善することも期待できます。

レーザー治療

三叉神経が骨から出てくるところ、眼神経なら眼窩上孔、上顎神経なら眼窩下孔、下顎神経ならオトガイ孔に、レーザーを照射することも三叉神経麻痺の治療に有効といわれています。

ツボ

麻痺の原因が明らかで、その原因に対する西洋医学的治療法が確立しているものに対しては、西洋医学的治療法を優先すべきです。

神経麻痺に対してもツボ治療が行なわれることがありますが、ツボ治療の効果がある神経麻痺は、一般的に運動神経麻痺に対するものです。

いわゆる三叉神経麻痺は、感覚の神経麻痺ですので、ツボ治療の効果は限定的と考えられます。

参考文献:「ハリを知らなくても出来る ツボ注射治療 金芳堂」

手術

三叉神経麻痺の治療に、外科的手術が行なわれることがあります。

この場合に行なわれるのは、神経縫合術と神経移植術です。

神経縫合術

三叉神経の完全断裂や部分断裂といった損傷が適応となります。

たとえば、下顎の親知らずの抜歯や、インプラント埋め込み手術の際に、下顎神経を傷つけてしまうことがあります。

 

抜歯やインプラント手術で損傷する範囲は非常に限定的です。

こうした狭い範囲の三叉神経の損傷に対して、神経縫合術は行なわれます。

 

神経縫合術は、損傷した部分を切断し、切断によって現れた新鮮な面と面を顕微鏡で見ながら縫合します。

神経縫合術を行なうと神経が短くなりますので、縫合術には距離の面からの限界があります。

一般的には30〜40[mm]が限界といわれています。

神経移植術

三叉神経の一部が欠損した場合に、身体の他の部分から神経を採取し、欠損したところに移植する方法です。

 

たとえば、下顎神経は、下顎骨の後方の下顎孔から下顎骨内に入り、下顎管を通って、オトガイ孔から出て行きます。

下顎管が走行している部位にエナメル上皮腫のような良性腫瘍や顎骨中心性癌などの悪性腫瘍が発生した場合、腫瘍を摘出したり切除するだけでなく、顎骨を一部切除する顎骨区域切除術や顎骨半側切除術も併用されることがあります。

この場合、顎骨を切除する過程で、下顎神経も切断せざるをえなくなります。

 

神経移植術は、このような広範囲に三叉神経が切断された症例や、神経縫合術が適応出来ない様な症例に対して行なわれます。

神経移植術に際して移植される神経には、大耳介神経や前腕神経や外側皮神経を用いることが多いです。

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まとめ

三叉神経麻痺は、一般に顔面部の感覚の神経麻痺のことをいいます。

感覚の神経麻痺なので、顔の表情には影響することがありません。

症状は、麻痺が生じた部位と、そうでない反対側で比べることで、皮膚感覚に差が現れます。

 

三叉神経麻痺の治療法は、薬物療法が第一選択となり、ビタミンB12製剤であるメチコバールがよく用いられます。

物理的刺激が原因で生じている場合は、その除去も必要です。

手術が適応されることもあり、神経縫合術や神経移植術が用いられます。

狭い範囲の損傷には神経縫合術が、広い範囲の損傷には神経移植術が行なわれます。

 

参考文献
口腔外科専門医マニュアル 医歯薬出版株式会社
口腔外科学第5版 医歯薬出版株式会社

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