乾燥する季節に起こることが多い「唇の荒れ」、いやですよね。
しかし、重大な病気の可能性も否定できないので、「たかが唇の荒れ」と油断してはいけません。
今回は、病気でない口唇炎と、病気による口唇炎に分類し、専門である口腔外科医が分かりやすく解説しましたので参考にしてみて下さい。
病気でない口唇炎
まずは病気が原因でない唇の荒れについて説明します。
どちらも馴染み深いものですが、あらためて再確認していきましょう。
舐めることによる口唇炎
どうして唇を舐めると荒れるの?
唇を舐めると、唾液によって一時的に潤されますが、すぐに蒸発してしまいます。
これによって唇が本来持っている水分も奪われてしまいますので、唇が乾燥して荒れてしまいます。
対処法
リップクリームなどを塗って保湿することが一番の対策です。
それでも改善しにくいときは、歯科医院を受診して相談してください。
乾燥による口唇炎
どうして乾燥すると荒れるの?
唇はじつは皮膚ではありません。
口腔内の粘膜が外側に広がったものなので、唇の表面は粘膜なのです。
粘膜と皮膚の大きな違いは、角化しているかしていないかです。
皮膚は角化していて乾燥や刺激から守られているのですが、粘膜は外気に触れないところにあるのが前提なので角化していません。
ところが、唇は粘膜であるにもかかわらず外気に露出しています。
そのため、冬場に多い乾燥した空気、エアコンによって乾燥した空気などにさらされると、たちまち乾燥を起こしてしまい荒れてしまいます。
対処法
リップクリームで唇を保湿してください。
マスクを使うのもいいでしょう。
加湿器が使える状況であれば、加湿器を使って空気を潤すのもいいですね。
病気による口唇炎
それではここからは、病気による唇の荒れについて解説していきます。
中には軽視できない病状もありますので、注意深く確認していって下さい。
接触性口唇炎
接触性口唇炎とは
口唇の外部から原因となる物質が作用して起こる、口唇の炎症のことです。
ちなみに、飲み薬や注射薬など身体の内側から作用して発症するものは、”接触性”とは呼ばず中毒疹といいます。
接触性口唇炎の原因
原因物質の刺激、もしくはアレルギー反応です。
一般的に後者の方が症状は軽いです。
接触性口唇炎の症状
原因物質が接触したところに一致する、赤みを帯びた腫れを認めます。
水ぶくれを形成することもあります。
かゆみを伴うこともあるのですが、ひどいかゆみになることは稀で、多くの場合軽いかゆみ感ですみます。
口唇に留まらず、周囲の皮膚にまで広がってくることもあります。
接触性口唇炎の治療法
原因物質を取り除きます。
これでほとんどが自然に治ります。
症状に応じて、ホウ酸軟膏やステロイド軟膏を塗布することもあります。
[box class="yellow_box" title="光線口唇炎"] 接触性口唇炎を生じさせた原因物質が日光の場合があり、この病態を特に光線口唇炎とよびます。
症状や治療法は、接触性口唇炎と同じです。
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剥脱性口唇炎(はくだつせいこうしんえん)
剥脱性口唇炎とは
唇の粘膜が剥がれてカサブタを作る口唇炎のことで、下口唇に生じることが多いです。
年齢層では、若年成人によくみられます。
剥脱性口唇炎の原因
原因はよくわかっていません。
ビタミンB2欠乏症に伴って出現することもあります。
光線口唇炎や接触性口唇炎でも同じような症状を示しますが、原因の明らかなこれらの口唇炎では剥脱性口唇炎とは呼ばず、光線口唇炎や接触性口唇炎など原因に応じた病名で呼ばれます。
剥脱性口唇炎の症状
唇が軽く赤みをさし、表面の粘膜が剥がれてきます。
剥がれたところに大きめのカサブタができ、これを剥がすと「びらん」を生じて出血します。
剥脱性口唇炎の治療法
剥脱性口唇炎は難治性です。
ワセリンやホウ酸軟膏を塗ったりしますが、症状が強い場合はステロイド軟膏やステロイド剤の内服薬、非ステロイド系抗炎症剤の投与を行ないます。
ただし、これらの効果は改善を認めても一過性に過ぎず、再発することも認められます。
ビタミンB2製剤やビタミンB6製剤を処方することもあります。
肉芽腫性口唇炎
肉芽腫性口唇炎とは
肉芽腫性口唇炎とは、くちびるが全体的に風船が膨らんだように腫れて、肉芽腫を形成する病気です。
男女間に差はほとんどなく、一般的に下口唇によく生じます。
年齢差では、若年層に多くみられます。
肉芽腫性口唇炎の原因
今のところ、よくわかっていません。
自律神経の異常やアレルギー、体質などいろいろ考えられていますが、断定されてはいません。
肉芽腫性口唇炎の治療法
もし、お口の中に口唇炎を引き起こすような病巣があるのなら除去します。
病巣を取り除くことで、腫れがひいたという報告例もしばしばみられます。
副腎皮質ステロイド剤を処方することもありますが、多くの場合一過性の改善に留まり、再発することも稀ではありません。
外科的に取り除くこともありますが、どの治療法にも確実といえるものはありません。
[box class="yellow_box" title="メルケルソン・ローゼンタール(Melkersson-Rosenthal)症候群"] メルケルソン・ローゼンタール症候群とは、肉芽腫性口唇炎に顔面神経麻痺や溝状舌を併発した病態です。
メルカーソン・ローゼンタール症候群とよばれることもあります。
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腺性口唇炎(せんせいこうしんえん)
腺性口唇炎とは
1870年に初めて症例が報告された稀な口唇炎で、下口唇に生じることが多いです。
家族内での発症も認められるといわれています。
前がん病変のひとつとの考えも示されています。
腺性口唇炎の原因
今のところ、よくわかっていません。
歯肉炎や歯周炎、タバコや梅毒との関連性を指摘されることもありますが、明らかにはなっていません。
腺性口唇炎の症状
- 口唇腺の過剰形成による口唇の腫れ
- 瘻孔とよばれる膿などの出口からの粘液の分泌
- 嚢胞という内側に液体を溜めたおできのようなものを形成
上記のような症状があらわれます。
症状に応じて、3タイプに分類されています。
- 第一型は炎症症状を伴わないタイプ
- 第二型は化膿性の慢性的な炎症を認めるタイプ
- 第三型は膿瘍という膿の袋を形成するタイプ
腺性口唇炎の治療法
一般的には、腺性口唇炎の生じた部位の外科的な切除術が行なわれます。
化膿性炎症を認める場合は、切除術に先立って、まず抗菌薬の投与による消炎が優先されます。
口唇ヘルペス
口唇ヘルペスとは
唇に小さな水ぶくれ(水疱)を生じる病気です。
水ぶくれの数は、ひとつであったり複数であったりとさまざまです。
水ぶくれは、口唇粘膜と皮膚の境界付近によく出来ます。
男女間での発症例に差はなく、年齢層も子どもから大人まで幅広く認められます。
口唇ヘルペスの原因
単純ヘルペスウイルスの感染です。
単純ヘルペスウイルスには1型と2型がありますが、口唇ヘルペスを起こすのは単純ヘルペスウイルス1型の場合がほとんどです。
口唇ヘルペスの症状
再発型がほとんどですが、初感染で生じることもあります。
ストレスや疲れ、かぜなど、さまざまな誘因があったのちに、2〜4日程度で口唇に水ぶくれを生じます。
水ぶくれを形成する前に、軽いかゆみや違和感、それに引き続く紅斑を認めることもあります。
水ぶくれは、自然につぶれて「びらん」になったのち、カサブタを作り治っていきます。
おおむね数日から2週間程度で治っていきます。
初感染の場合は、形成する水ぶくれは大きく症状は重いですが、再発を繰り返すうちに小さくなり数も減ってき、症状が軽くなっていきます。
口唇ヘルペスの治療法
抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビルの内服薬(商品名:ゾビラックス、バルトレックスなど)がよく効きます。
「びらん」の症状が強い場合は、抗ヘルペスウイルス薬の軟膏(商品名:アラセナ-A軟膏)が処方されます。
まとめ
唇が荒れる原因はいくつかあります。
それぞれの病態に応じた適切な治療が必要です。
もし唇が荒れたときは、まずは専門家である歯科医院を受診することをお勧めします。
歯科医師に診断をしてもらい、適切な治療を受けるようにしてください。