「Turnbaugh P.J. et al: An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest. Nature, 444:1027−1031, 2006」
「石井ら:ビフィズス菌B.3とビフィズス菌BB536およびN.アセチルグルコサミンを含む製剤の軽度肥満者における体組成および腸内フローラに及ぼす影響一ランダム化二重盲検並行群間比較試験一. 肥満研究,22(2):133-144」
最近、様々な病気や症状の改善方法として、腸内環境の正常化といった言葉を耳にすることも増えているかと思います。
腸は、第二の脳と呼ばれるように独自の神経ネットワークをもち、脳からの指令がなくても活動することができるため、腸の健康状態が全身の健康状態に影響を与えることがわかってきました。
腸内環境を正常化させることで、どのようなメリットがあるのか、また腸内環境を正常化させる方法についてお話ししていきます。
腸内環境を整えると得られるメリット
まずは、腸内環境を整えると得られる3つのメリットについて紹介していきましょう。
整腸作用
日本人の10%前後が悩まされ、特に高齢者や女性に多いのが便秘です。
便秘は腸の活動が低下し、腸内細菌のバランスの異常が生じることで便が腸内で留まってしまう状態です。
便秘になることで腸内にて発生した有害物質や発がん物質が排出されず、体に再吸収されてしまうために、肌荒れや下腹部の膨満感だけでなく、ひどい場合には大腸がんなどの様々な不調の原因となります。
一方、腸管での水分吸収ができず、腸内の液体が排出された状態である下痢は、排便が頻回になることで日常生活に支障をきたすだけでなく、進行すると脱水を招き、ひどい場合には輸液が必要になることもあります。
これらの排便障害に対し、特に有用菌とされるビフィズス菌やラクトバチルス菌を増殖し、腸内フローラ(腸内細菌叢)を改善することで腸管の運動不全を解消することが報告されています。
アレルギー症状の予防
日本を初め、先進国においてアトピー性皮膚炎(以下、アトピー)やアレルギー性鼻炎、気管支ぜんそく、花粉症など、アレルギー疾患の患者数は増加しています。
その原因としては、大気汚染などの環境要因や、食生活やストレスなどの身体機能の変化などが考えられていますが、決定的な要因はいまだ不明です。
しかし、近年、腸内環境とアレルギーに密接な関係があることがわかってきました。
実際に、腸内に善玉菌が少ない赤ちゃんは、多い赤ちゃんに比べてアトピーの発症リスクが高いことや、アトピーの子どもは大腸菌などの悪玉菌が多く、乳酸菌などの善玉菌は少ないといったことが多数報告されています。
そして、アトピーの家族歴を有する妊娠末期の母に対し2週間、そして出産後の半年間に乳酸菌を投与することで、2歳時点で投与されなかった子どもよりも投与されていた子どものアレルギーの発症が抑制されたとの報告もあります。
つまり、母親が何らかのアレルギーを自らが有する場合には、予防的に腸内環境を整えるようなプロバイオティクス食品をとることが、子どものアレルギーの発症を予防するうえでは有効です。
肥満の予防・改善
現在、日本人の40歳以上の男性の約半数がメタボリックシンドロームまたはその予備軍であると報告されています。
肥満は様々な病気の元になることから、その解消方法として食事制限による摂取エネルギーの制限と、身体活動や運動などの実施による消費エネルギーの増加が推奨されています。
しかし、食事や運動により効率よく減量できる人もいる一方で、計算上ではしっかり減量できるはずが、思うように減量が進まない人もいます。
最近の研究では、肥満型の腸内フローラや痩せ型の腸内フローラがあることがわかってきました。
実際に動物実験では、遺伝的に肥満型マウスの腸内細菌を、無菌のマウスに摂取させると、総脂肪量が増加することや、肥満型マウスには消化が難しいものまで消化分解できる腸内細菌が発見されており、痩せ型マウスよりもエネルギーを多く摂取することが報告されています。
また、ヒトにおいても食生活や運動習慣を変えることなく善玉菌のサプリメントを半年間摂取することで、体脂肪率の減少に効果があることも報告されており、効率的なダイエットのためには腸内環境の改善もかなり有効であると言えます。
腸内環境を整える方法
それでは次に、腸内環境を整える具体的な方法について3点紹介してみたいと思います。
プロバイオティクス食品を摂取する
プロバイオティクスとは、
「適正な量を摂取することにより宿主に有用な作用を発揮する生きた微生物」
と定義されています。
プロバイオティクスの中の代表的な菌は乳酸菌とビフィズス菌で、これらは善玉菌と呼ばれています。
これらの菌を含む食品は、動物性乳酸菌としてはチーズやヨーグルトがあり、中でもヨーグルトや乳酸菌食品については近年様々な種類の菌が含まれるものが販売されており、自分自身の腸内にあったものをとることが重要です。
また、植物性乳酸菌を含む食品としては、ぬか漬けやキムチなどの漬物や、しょうゆや味噌などがあり、比較的日本人には身近な食品から摂取は可能です。
プロバイオティクス食品は、毎日摂取することで一時的に腸内の善玉菌を増やすことはできますが、その善玉菌が居心地のよい環境がそろっていなければ、なかなか定着はしてくれません。
お腹に張りを感じたり、忙しくて食事がきちん摂れないときなど、腸内フローラのバランスが崩れてしまいそうなときは、継続的にプロバイオティクス食品を活用して善玉菌を増やしていきましょう。
プレバイオティクス食品を摂取する
プレバイオティクスとは、
「大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分」
と定義されています。
プレバイオティクスの代表はオリゴ糖類と食物繊維で、腸内に入れたビフィズス菌などの善玉菌のエサになる栄養となり、善玉菌を増やすことができます。
オリゴ糖類を含む商品は、おなかの調子を整えるという保健機能から特定保健食品として販売されており、特にプロバイティクス食品であるヨーグルトに添加されている商品も多くあります。
食物繊維は、大きく分けて水に溶ける水溶性と水に溶けにくい不溶性の2種類がありますが、ビフィズス菌のエサになりやすいのは水溶性食物繊維です。
水溶性食物繊維は、
- わかめ
- めかぶ
- もずくなどの海藻類
- オクラ
- モロヘイヤ
- 山芋
などの、海藻類やネバネバした食材に多く含まれます。
最近では食生活の欧米化にともない、日々の食事の中で不足してしまいがちな食物繊維を補うために作られたトウモロコシのでんぷんから作られた難消化性デキストリンという成分があります。
食後の糖や脂肪の吸収を遅らせるといった効果があることから、肥満予防の観点からの食品にも多く含まれています。
食事で上手に摂れない時には、そのようなトクホ食品をうまく利用することも重要です。
バランスのとれた食事(低たんぱく質・低脂肪)
最近では、炭水化物抜きダイエットや低炭水化物(ローカーボ)ダイエットが、減量効果が大きいということで大流行しています。
これらのダイエットでは、たんぱく質や脂肪についての制限があまりないことも特徴です。
しかし、たんぱく質や脂肪をたくさん摂りすぎると、それらをエサにする別の菌が腸内で増殖してしまい、その菌が生み出す毒性の高い物質や腐敗物質などが腸内環境に悪影響を及ぼし、便秘などを招く可能性があります。
炭水化物は糖質と食物繊維の合計です。
日本人の場合、通常の食事では炭水化物の比率が高い傾向にあるために、制限することで十分な食物繊維も摂れなくなります。
腸内環境を整えるためには、ご飯や玄米、そばなどの主食とともに野菜や果物、海藻を含む、一般的に理想とされるバランスのとれた食事を心がけることが重要です。
しかし食事は毎日のことなので、あまり深く考えすぎてストレスを感じないようにしましょう。
まとめ
腸内環境は非常に個人差が大きいものであるため、自分の腸にあった方法を見つけることが重要です。
ただしすぐに効果が現れるものではないので、一つの方法を始めたらまずは2週間続けてみて、効果があまり感じられないようなら別の方法に変えていくようにしましょう。
参考文献
「Kalliomaki M et al:Probiotics in primary prevention of atopic disease:arandomised placebo controlled trial. Lancet 357(9262)11076 1079,2001」
「Turnbaugh P.J. et al: An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest. Nature, 444:1027−1031, 2006」
「石井ら:ビフィズス菌B.3とビフィズス菌BB536およびN.アセチルグルコサミンを含む製剤の軽度肥満者における体組成および腸内フローラに及ぼす影響一ランダム化二重盲検並行群間比較試験一. 肥満研究,22(2):133-144」