「身体全体がゾクゾクする」
「身体が重くて熱っぽくてこれからもっとひどくなりそうな気がする」
等々、インフルエンザのかかり始めには何かしらの兆候があります。
でも、実はこのような初期症状が出る前からすでにインフルエンザウイルスは私たちの喉や肺の粘膜に付着し、そこから細胞に忍び込み、免疫細胞からの攻撃を巧みにかわし、血流に侵入し、全身にわたって増殖を繰り返しています。
この潜伏期間では、私たちの身体は何らかの異常をキャッチできるのでしょうか?
あるいはここで症状が悪くなるのを食い止めることができるのでしょうか? 今から見ていきましょう。
インフルエンザの潜伏期間
インフルエンザA型
最近では2009年にメキシコからブタを介して発生した新型インフルエンザA型(H1N1)が、世界で猛威をふるいました。
日本にも入り、厚生労働省ではこのインフルエンザに1年で国民の約2000万人が罹患、入院患者数は約1.8万人、死亡者は203人出たことを報告しています。
なお、他にも現在国内で流行しているインフルエンザとして香港型(H3N2)がありますが、これもA型のインフルエンザです。
典型的な症状として、発熱、咳、悪寒、咽頭痛、鼻水などの他、下痢や嘔吐が見られます。
インフルエンザA型で注意すべき点としては、50歳以下の健常成人や小児で、最初軽症でも5~6日後にウイルス性肺炎を起こして重症化することが挙げられ、この場合医療機関での緊急治療が必要になります。
これらのインフルエンザA型は、つばやくしゃみなどからの飛沫あるいは同じ空気にいることで、口腔内から気道にある粘膜細胞にウイルスが付着し、粘膜細胞から侵入していきます。
ここから感染が始まり、潜伏期間に入ります。
潜伏期間は新型インフルエンザA型で1~7日、その他の季節性インフルエンザA型で2日程度とされています。
インフルエンザB型
もう一つ、日本国内で流行しているインフルエンザとしてインフルエンザB型が挙げられます。
インフルエンザB型の潜伏期間は、WHO(World Health Organization:世界保健機関)では2日程度としています。
A型がヒトからヒトだけでなく、
- トリからヒト
- ブタからヒト
- ウマからヒト
- イヌからヒト
- ブタからヒト
というように動物からヒトへ感染するのに対して、B型はヒトからヒトという感染経路に限定されます。
A型同様、38~40℃の発熱、咳、悪寒、咽頭痛、鼻水などの症状はありますが、A型よりも比較的軽くすみます。
ただし、A型では見られない現象として、B型インフルエンザが、同じ患者から比較的長い日数をおいて、再度検出されたという報告があります。
そこではB型インフルエンザは強い症状が出ない代わりに長引いたり、再感染したりする可能性が示されています。
インフルエンザの潜伏期間中の感染力
1つのウイルスが細胞に侵入(感染)すると8時間後には100個に増殖し、16時間後には1万個、24時間後には100万個にまで増加すると言われます。
このような急激な増殖が行われ、やがて悪寒、発熱、咳、くしゃみなどの症状が現れます。
それでは、他人にインフルエンザをうつすほどの感染力を、症状が出ていない潜伏期間でも人は持つのでしょうか?
アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)では、成人では症状が発現する1日前から、他人にインフルエンザを感染することができるとしています。
これはつまり、潜伏期間の途中段階から感染力を持ち出すことを意味しています。
ちなみに潜伏期間中の感染力はそれほど強くなく、感染後3日目に感染力のピークを迎えることが知られています。
この頃になると咳がたくさん出るようになり、飛沫を周囲に飛び散らしやすくなるためです。
潜伏期間中の症状
インフルエンザは通常の風邪に比べ、感染力が高く、ウイルスがきわめて迅速に増殖していくので、潜伏期間から発症までの期間が非常に短いのが特徴です。
潜伏期間中は「潜伏」という名が示すとおり、はっきりとした症状を感じにくい時期です。
しかし、全身の倦怠感、悪寒、喉の乾燥などのインフルエンザ特有の前駆的な症状を、うっすらと感じ始める時期でもあります。
また、このような症状を感じ始めるとすぐに強い高熱、筋肉痛、関節痛などが出てくるのがインフルエンザの特徴でもあります。
潜伏期間中は平熱?
感染者の口や鼻から飛び出してくるインフルエンザウイルスを喉や気管支の粘膜で受けて、細胞へとウイルスが入り込むのに約20分かかり、ここからが感染の始まりになります。
この時点から、インフルエンザがすさまじいスピードで増殖するわけですが、潜伏期間中はまだ発熱が見られず平熱の状態です。
潜伏期間中に検査は有効?
インフルエンザにかかっているか、そうでないかを検査する方法として「インフルエンザ迅速抗原検査」というものがあります。
この検査を、もしインフルエンザにかかっている人(陽性患者)が受けた場合、80~90%で見つけることができる(陽性と判断される)とされています。
しかし、10%はかかっていたとしても陽性反応が出ませんし、感染早期では検査で陽性反応が出にくいとされています。
潜伏期間はさらに前の段階になりますので、検査で正確に判断することは難しいと言えるので、検査自体が有効かは意見が分かれるところです。
潜伏期間中の予防接種は有効?
インフルエンザの予防接種は、打ってからすぐに効果が期待できるわけではありません。
インフルエンザウイルスの抗体ができて予防効果が出てくるまでに、2週間程度はかかると言われます。
したがって、このあと24時間のうちには発症すると思われる潜伏期間に予防接種を行ってもあまり意味がなさそうです。
ただし、季節性インフルエンザのワクチンはA型B型混合となっているので、今かかっている以外の型のインフルエンザにはかかりにくくなるというメリットはあります。
しかし実際のところ、潜伏期間で予防接種をするくらいならばタミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬の早期投与の方が今のインフルエンザ対策としては有効でしょう。
ちなみに、かぜ薬や抗菌薬はインフルエンザウイルスに有効ではありません。
したがって、市販薬などで予防を図ることはまず期待できません。
潜伏期間中と疑われる場合の対策
抗インフルエンザ薬を処方してもらう
潜伏期間中に自分がいると思ったとき、インフルエンザによる症状を最小限にするためには、医療機関でタミフルやイナビル、リレンザなどの抗インフルエンザ薬を処方してもらい、これをすぐに服用するのが最も有効な対策となります。
なお、インフルエンザ迅速抗原検査で陽性と診断されなくても、医師がインフルエンザと診断すれば抗インフルエンザ薬の処方は可能です。
ただし、インフルエンザと診断できない人が予防目的で抗インフルエンザ薬を処方してもらおうとすると、保険が効かない自費診療となります。
費用は4000円~5000円程度かかりますが、70~80%の確率で感染を防ぐことができるとされています。
免疫力でウイルスをはね返す
潜伏期間ではウイルスがもう細胞に侵入しているので、薬に頼らないならば自分の細胞が持っているウイルスの伝播を止める力、すなわち「自身の免疫力」に期待するしかありません。
免疫力を上げるためには安静にしてしっかり栄養、休養、睡眠を摂ることが重要です。
このとき水分もしっかり摂るようにしましょう。
潜伏期間中の学校や仕事先での注意点
インフルエンザの潜伏期間は、ウイルスが身体中に広がっている最中です。
人への感染力も持ち始めています。
この状況では、すぐに学校や仕事先を早退して静養を図りたいところです。
あるいは医療機関を受診し、抗インフルエンザ薬の処方してもらうことで、症状の重症化を避けつつ早期治癒を図りやすくなります。
すぐに早退できない場合はマスクを着用し、消毒液を用いた手洗いを励行するなどして、周囲にインフルエンザをまき散らさないように配慮しながら授業や仕事に参加するのがマナーです。
まとめ
インフルエンザには症状が本格化する前に、「潜伏期間」という身体中にウイルスが伝播していく期間があることをご理解いただけたと思います。
この期間は2日前後と短いのですが、ここで自分が「インフルエンザにかかったかも」と感知でき、適切な対策が取れれば、症状が本格化する前にインフルエンザウイルスをやっつけられる可能性が高くなります。
もし感染が進んでも「重く苦しい」はずのインフルエンザ特有の症状が、「大したことない」ものに変わります。
インフルエンザ流行の時期には潜伏期間に対する感知力を高め、インフルエンザにかかったとしても静養、投薬の2段構えで対応していきましょう。