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ふと顎に触ってみたら気になるしこりを見つけてしまったら、なんだか心配になってきませんか?
軽度の症状で治まるものもありますが、中にはとんでもない重病に発展してしまうことも。
今回は、顎の周りにしこりができる11個の原因や治療法、そして何科の病院で診察を受ければ良いのか、専門である口腔外科医が保存版としてまとめました。
これらに似た症状が見られた場合は、なるべく早くに紹介している病院を受診されることをお勧めします。
ニキビや毛嚢炎
ニキビと毛嚢炎は皮膚に生じる病気という点で似ていますが、実は異なる病気です。
症状
ニキビは、若年者の顔に生じる出来物のことです。
それ以上の年齢でも生じますが、その場合は吹き出物とよばれます。
ニキビが生じた毛穴の状態によって、白・黒・赤と状態が変化します。
毛嚢炎の症状は、毛穴を中心に赤い発疹と中心部に白いニキビのような丘疹が生じます。
痛みなどの自覚症状が現れることは少ないです。
原因
ニキビの原因は、毛穴にたまった皮脂の汚れとアクネ菌という皮膚にいる細菌の感染ですが、毛嚢炎は皮膚にできた傷からの黄色ブドウ球菌の細菌感染です。
対処法・治療法
皮膚科が専門診療科となります。
ニキビの治療は、洗顔をしっかり行ない皮膚を清潔な状態に保つこと、多発している場合は、抗菌薬やステロイド軟膏などの薬物療法を行ないます。
毛嚢炎の治療は、経過観察となることが多いですが、多発している場合や大きなものになれば、抗菌薬などを投与します。
虫歯
むし歯は、お口の中のむし歯菌が産生する乳酸によって歯が溶かされる病気です。
症状
むし歯の症状は、歯の欠損と痛みです。
痛みが生じるのは、歯の神経がむし歯菌によっておかされるからです。
しかし、更にむし歯が進行すると、歯の神経は死んでしまい、痛みがなくなります。
歯の神経が死んでしまった後は、腐って膿がたまってきます。
風邪や疲れなどで体調が悪くなると免疫力が低下し、その部分や顔(下顎の場合は、顎のあたり)が腫れてくるようになるのです。
原因
ストレプトコッカス・ミュータンスなどの細菌感染です。
対処法・治療法
むし歯の専門診療科は歯科です。
腫れが著しいときは、まず抗菌薬で炎症の緩和を図ります。
そして、原因の歯の治療として歯の根の治療や抜歯などを行ないます。
リンパ節炎
リンパ節は、病原微生物などの異物が血管に入り込んで全身に広がるのをくい止める働きをしています。
つまり、リンパ節は免疫系を構成する器官のひとつなのです。
リンパ節炎とは、このリンパ節におきる炎症のことをいいます。
症状
頬には頬部リンパ節とよばれるリンパ節があります。
頬部リンパ節は、中顔面や前額部からの炎症が心臓へ向かわないようにくい止める役割を果たしています。
この頬部リンパ節が腫れてくると、顎から頬の当たりにかけて、コリコリとしたしこりが生じます。
炎症性の腫脹ですから、痛みを伴います。
なお、頬部リンパ節はあるのが正常です。
ですので、炎症を起こしていなくても、指で触れるとコリコリとして見つかることがあります。
けれど、小さくていたくなければ治療の必要性はありません。
原因
体に生じた感染病巣から、リンパ管を通り所属リンパ節に細菌などの病原微生物が到達し、炎症を起こすのが原因です。
病原微生物以外では、悪性腫瘍の腫瘍細胞もリンパ節に炎症を引き起こす原因となります。
頬部リンパ節の場合は、頭部から顔面部に生じた化膿巣が原因であることが多いです。
対処法・治療法
頬部リンパ節炎の専門診療科は、歯科、歯科口腔外科、耳鼻咽喉科です。
治療の第一選択は、薬物療法です。
まず抗菌薬による消炎を行ないます。
そののち、頬部リンパ節を腫脹させた原因の治療をします。
甲状腺炎
甲状腺は、喉仏の下あたりにある直径4〜5cmほどの大きさの内分泌臓器です。
甲状腺ホルモンというホルモンを作り出しています。
甲状腺炎とは、その甲状腺に起こる炎症のことです。
中でも多いのが橋本病とよばれる慢性甲状腺炎で、次いで多いのが亜急性甲状腺炎です。
症状
甲状腺が腫れてくるために、首のあたりや顎の下付近に硬いしこりが生じます。
大きくなると頚部が圧迫されるような感じがするようになります。
原因
橋本病(慢性甲状腺炎)の原因は、甲状腺の細胞に対して自分自身が持っている免疫系が反応してしまうことにあります。
つまり橋本病は、自己免疫疾患なのです。
亜急性甲状腺炎の原因は、ウィルス感染が原因と考えられていますが、今の所はまだはっきりと同定はされていません。
対処法・治療法
甲状腺炎の専門診療科は、内科です。
橋本病により、甲状腺機能低下症を引き起こした場合は、甲状腺ホルモン薬などを処方します。
橋本病による甲状腺の腫大に対しては、基本的に治療は必要ありません。
亜急性甲状腺炎の治療法は、アスピリンや副腎皮質ステロイド剤などによる薬物療法です。
脂肪腫
脂肪腫とは、良性腫瘍の一種です。
症状
痛みのような自覚症状はありません。
境界の明らかな柔らかいしこりを形成します。
お口の中にもできますし、顎の下から首にかけても発生します。
お口の周辺にできる脂肪腫では、その大きさはそれほど大きくなく、直径数mmから数cmくらいです。
摘出した脂肪腫の分割面は、黄色味がかっています。
原因
実は、脂肪種の原因はよくわかっていません。
対処法・治療法
脂肪腫の専門診療科は、生じた部位によって異なります。
顎の周辺に発生した場合は、歯科口腔外科です。
治療法は、外科的に摘出するのが第一選択です。
粉瘤(ふんりゅう)
粉瘤とは、アテロームという良性腫瘍のひとつです。
症状
皮膚にコリコリとしたしこりが生じます。
顎の皮膚に生じた場合も同じです。
しこりは基本的に痛みを生じませんが、細菌感染を起こすと痛みを感じるようになります。
原因
粉瘤が生じる原因は、皮膚に生じた嚢胞にあります。
嚢胞とは、上皮でできた袋状の独立した構造物です。
嚢胞が生じる原因はよくわかっていません。
この嚢胞に皮脂や汚れがたまってしまうことが、粉瘤を形成します。
対処法・治療法
粉瘤の専門診療科は、皮膚科です。
残念ながら粉瘤は良性腫瘍の一種ですので、薬物療法で治すことはできないのです。
細菌感染を起こして化膿した場合には、抗菌薬を投与して炎症を抑えますが、これはあくまでも炎症を抑えているだけに過ぎず、粉瘤は依然として残っています。
粉瘤を治療するためには、摘出手術が必要です。
ガングリオン
ガングリオンとは、手首や手の甲によくできる小さな嚢胞のことです。
症状
多くの場合、関節の付近に痛みを伴わないしこりを生じます。
しこりのなかには、ゼリーのようなどろりとした内容液を認めます。
手首や手の甲に好発しますが、身体中のどこにでも生じる可能性があります。
顎関節にも生じます。
原因
ガングリオンができる原因は、現在のところは明らかになっていません。
対処法・治療法
ガングリオンの専門診療科は整形外科です。
基本的には経過観察です。
経過観察中に自然に消退すればいいのですが、痛みなどの自覚症状が認められた場合は、内容液を吸い出して縮小させます。
口唇ヘルペス
口唇ヘルペスとは、単純疱疹ともよばれる唇に水疱やびらんを形成する病気です。
症状
まず口唇に発赤を認め、そして水ぶくれのような小さな水疱を形成します。
数日経過すると水疱が自潰し、びらんになります。
びらんにカサブタができた後、治っていきます。
唇にだけ発症するものではなく、顎や頬にも生じることがあります。
原因
単純ヘルペスウイルスの感染です。
対処法・治療法
口唇ヘルペスの診療科は、歯科・歯科口腔外科ですが、歯科がない場合は耳鼻咽喉科でも診てもらえます。
治療法としては、抗ウィルス薬の軟膏や飲み薬を投与する薬物療法が第一選択となります。
唾液腺炎
唾液腺とは、唾液を作り出している組織のことです。
大きな唾液腺としては、耳下腺、顎下腺、舌下腺があります。
それぞれ、左右2対ありますので、大唾液腺は合計6つあることになります。
耳下腺は耳の前下方、顎下腺は顎の付け根付近、舌下腺は舌の下あたりにあり、そこから導管をのばし、開口部から唾液を分泌します。
症状
唾液腺の腫れや痛みが主症状となります。
耳下腺炎であれば、耳の前あたりの顎が腫れてきます。
顎下腺炎や舌下腺炎では、顎の裏側が腫れてきます。
また、導管が詰まって唾液が流れにくくなると、唾液が詰まってお口の中で導管部分が腫れてきたり、唾液の量が減少してお口が乾燥したりします。
原因
唾液腺炎の原因の代表は、お口の中の細菌です。
唾液腺の開口部は常に開いています。
開いているため、開口部からお口の中の細菌が入り込もうとします。
しかし、通常は唾液が分泌されてくるので、唾液の流れに押し流されてしまい、唾液腺にまで到達することはできません。
唾液の分泌量が減少して、開口部から入り込もうとする細菌を洗い流す働きが低下した場合、細菌が唾液腺に到達して、唾液腺炎を起こします。
その他、免疫力が低下したりすることも唾液腺炎を引き起こす原因になります。
また、唾石とよばれる石灰化物が唾液腺や唾液腺の導管に生じることでも唾液腺炎を起こすことがあります。
対処法・治療法
唾液腺炎の専門診療科は、唾液腺によって異なります。
耳下腺は耳鼻咽喉科です。
舌下腺と顎下腺は歯科口腔外科、もしくは耳鼻咽喉科です。
唾液腺炎の治療の第一選択は、抗菌薬による薬物療法です。
もし、唾石が原因で唾液腺炎を起こした場合は、唾石を摘出します。
導管内部の唾石なら、唾石だけを摘出することができますが、唾液腺内部に唾石が生じた場合は、唾液腺自体を取り除く手術が必要となります。
甲状腺がん
甲状腺がんとは、甲状腺に生じる悪性腫瘍のことです。
症状
自覚症状はほとんどありません。
硬めのしこりが生じるのが、唯一の症状です。
大きくなってくると、喉仏の付近から顎の下にかけてのしこりを認めるようになります。
原因
明確なところは、まだ明らかになってはいません。
放射線被曝や遺伝との関連性が示唆されていますが、研究段階にしか過ぎません。
対処法・治療法
甲状腺がんの専門診療科は耳鼻咽喉科です。
甲状腺がんは、病理学的な性質から分化癌と未分化癌に分けられます。
甲状腺分化癌に対しては、外科手術が第一選択です。
腫瘍の大きさや周囲組織への浸潤度合によって、リンパ節の郭清や甲状腺の全摘出術を行います。
甲状腺未分化癌の場合は、腫瘍の成長発育が急激な上、気管や食道などの周囲組織への浸潤も著明なことが多く、外科手術が適用できず、化学療法や放射線治療しか行いえないことが多いです。
中咽頭がん
中咽頭とは、喉のうち、口の奥から喉仏当たりまでの部分を指し、中咽頭がんとは、そこに生じた悪性腫瘍のことを言います。
症状
中咽頭は、食べ物や飲み物、空気の通り道です。
中咽頭がんの初期症状は、飲食物の飲み込みに際しての違和感からはじまります。
違和感は腫瘍の成長に伴い、痛みや飲み込み困難、発声困難に進行していきます。
症状はさらに激しい痛み、開口困難、息苦しさを呈するようになり、やがて生命の危機に至ります。
リンパ節にも転移します。
頚のリンパ節転移により、頚部リンパ節が腫れますと、顎や頚の周辺にしこりを伴う腫れを生じるようになります。
原因
アルコールやタバコの影響が大きいと考えられています。
対処法・治療法
中咽頭がんの専門診療科は耳鼻咽喉科です。
治療法は、腫瘍の大きさなどによって異なり、
- 腫瘍切除術や頚部廓清術などの外科治療
- 放射線治療
- 抗がん剤治療
から、最適の治療法が選ばれます。
まとめ
顎にしこりを作る病気はいろいろあります。
したがって、しこりを作った原因に応じた治療をしなければなりません。
しこりができたときは、症状に応じた診療科を受診するようにしてください。
参考文献:
「医学大辞典 南山堂」
「皮膚科学 南山堂」
「必修内科学 南江堂」
「標準整形外科学 医学書院」
「口腔外科学 医歯薬出版株式会社」